第十六章
「流石に真剣になった時の鏡は凄いわ。完全に乗りこなしているわ」
鏡だけでなく、静も天猫も竜以外は空を飛べない為に、百近い獣と戦い続け、まだ命があった。移動テーブルの使用で、空中を気持ちよさそうに舞い。隙を見せている獣を、カモメが魚を獲るように倒す。それでも、獣達は逃げない。まだ、数で勝っている。そう思っているのだろうか、それとも、あまりの怒りで倒す事しか考えられないのだろう。
「全ての獣よ。どけ、我の船の武器で倒す」
時が経つほど獣が倒されていく。その様子を見て考えを変えた。
「主様。お待ちください」
「うるさい。黙れ、黙れ。直ぐに退けろ。そうでなければ今直ぐに光を放つぞ」
竜は、船から少しずつ離れるが、銃身から離れたのでなかった。獣を庇うように立ちふさがった。それは、まだ、怒りに体が支配されているような状態の獣が戦っていたからだ。
「主様。それは使ってはなりません。それは人が使う武器と言うよりも種族を滅ぼしかねない兵器です。この時代には相応しくない。と言うよりも、造られてはならない物だったのです。それほど危険な物なのです。それで、月人は禁忌として封印したのです」
「黙れ」
叫び声と同時に、銃身から光が放たれた。その光は竜のウロコに当たると跳ね返り、上空に消えた。後ろの居た獣も鏡達にも届かなかったのだが、獣達は我を忘れた。
「主様が乱心された」
光を見た者、見なかった者。それぞれ居たが、竜が地に落ちる音は全てが聞いた。そして、何が合ったのか判断が出来た。竜のウロコが全て剥がれ落ち、裏側の肉が焼け焦げていたのだ。その様子を見た全ての獣は、叫びながら船にある銃の射線から逃げ出した。
「貴方は何考えているの。部下だけで任せられずに現れただけでなく、あのような危険な物まで使用して、貴方は、貴方達は、何をしたいの?」
輝は、これ以上の係わりをする気持ちは無かった。それでも、天猫と、静と鏡が心配で都市から様子を見ていた。だが、光が放たれたと同時に、都市が悲鳴のような音を発した。その都市の悲鳴よりも恐ろしい光に驚き、船の主と、全ての獣に問い掛けた。
「誰だ。お前は、誰だ」
場所も、人も特定が出来ないからか、それとも、相手に返信の操作が分からないのだろうか、先ほどと同じように全てに聞こえるように声を張り上げた。
「恐らく、貴方と同じ種族と思うわ」
「なら、俺に力を貸せ」
「嫌ですわ」
「何だとぉー」
「貴方は、恐ろしい武器を使いましたね。私は恐ろしい武器を使えないように来たのです。都市の全機能を使って、もし都市の機能が止まろうとも、貴方の船の制御を強制的に止めます。出来るのですよ。元は、都市に有った船だと分かりました。都市の全機能が動けば船は都市の指示にしたがいますわ」
「我が武器を止める。都市を動かすな」
竜が話し終わる前に、都市は姿を現した。そして竜は、都市が現れると、体の傷の為だろうか、それとも、現れた事に全てを諦めたのだろうか、また、地面に体を下ろした。
「何だ。何をした」
船の操舵画面は外を映さずに、輝の全身画面が現れた。
「驚く事は無いわ。元々姿を見ながら話が出来る物なのよ」
「ほう、俺と同じ姿だな。月人の象徴の背中の羽もあり、左手の赤い感覚器官もあるな」
輝には、気づかれないように光を放とうと操作を始めた
「また、恐ろしい光を使うと考えているの。無理よ。貴方の船と同調しました。船の半分は、私の指示に従いますわ」
まだ、半分だけの同調だ。だが、重要度から変更しているのだろう。
「そんなはずは無い。今直ぐ光を放って消してやる。放て」
「無理よ」
「放て、放て、放て、放て」
「諦めなさい」
「主様。戦いは止めるのです。都市のお嬢さん。擬人、獣人よ。我の話を聞け。私は、月人が始めて作られた獣だ。そして、都市から出る時の月人の護衛であり。そして、都市の外の情報を知らせる役目もあった。だが、時が流れるつれ都市からの指示も無くなり。都市の人々は全て亡くなったと判断した為に、最後の月人の主様に従うと決めた。私は、最後の一人と思い。好きな様にさせようとしたのだ。命がある者に連れ合いが無い。それは、死んでいると同じに思ったからだ。だが、都市にも生存者が居た。それだけでなく、赤い糸が見えると言う事は、赤い糸が繋がっている。それが分かった。まだ、月人に未来がある。主様の未来がある。獣達も復讐をするなら、主様に頼るな。復讐をしたいなら自分の力だけでやるのだ。だが、この空間から出た後、復讐をするなら、この場に居る。擬人達、都市のお嬢さん。そして、我が退治に行くと思え。復讐など考えずに静に暮らせ。月人に未来があるのが分かったのだ。お前らの孫、その子孫の頃に、主様の子孫が良い考えを出してくれるだろう。恐らく、楽園を造ってくれるはずだ。その夢を思って静に暮らせ」
また、意識を無くした。
「そんな話など聞かぬ。全てを消し去ってやる。船を動け、動け、動け」
「そうね。背中の羽。左手の感覚器官が、私にも見えるわ。同族ね」
「同じだと、なら、私の邪魔をする。猿の擬人が何をしたか分かっているはずだ」
「知らないわ。同じと言っても、元をたどれば同じ血が流れているだけだわ」
「それを同族と言うので無いのか?」
「私が言っているのは、遠い昔は一緒に住んでいたのでしょう。それが、分かれたのでしょうね。私の両親の記憶では、いや、都市の記憶では、貴方が言っている擬人でしょうね。全ての擬人と船から出てったらしいわ。私達の同族と一緒にね」
「何だって」
「都市の記憶では、私の同族は、同族だけで暮らす事を考え都市に残ったわ。貴方がたの一族は擬人と共に生きると、船を出たのよ」
「それは分かっている。だが、猿の擬人は、私達を騙し僻地へ追い出した。それだけで無く、女や子供を人質にとり、我が一族を自殺に追い込み、全てを殺したのだ。それを、許せるか、そうだろう」
「確かに、自分で命を捨てたのでしょう。同族の子供でも、擬人の武器などで殺せるはずがないわ。もし、子供達を殺せたとしても、身を守る力くらい子供でもあったはず」
「だがら、騙され。全てを殺したのだ」
「もしかして、貴方は、同族と暮らした事がないわね。擬人としか暮らした事がないのでしょう?」
「確かに、記憶が無いが、それが何だと言うのだ」
「貴方がたの一族は、一族が生きるよりも、生きた証を残す為に命を捨てたのよ」
「それが、どうしたと言うのだ。私を残し全てが死んだのだぞ。それが分からないのか」
「分からないわ。私達の一族は、生きた証は何も残っていないわ。ただ消えるだけ、貴方がたの種族は、存在していた事が残っているでしょう。それを選んだのよ。種族が生きるよりも、自分達が生きていた、その存在を残す為に命を捨て、擬人に、この地を渡し。語り次がれる事を願ったの」
「そうだとしても、俺は許さない」
「仕方ないわ。どうしても戦う。そう言うなら、私が擬人の手助けをするわ」
「なら、お前とも戦うしかないな」
「そう、でも、貴方は負けるわ」
「何故、分かる」
「それも、分からないの。貴方の船も、私の都市も、相当古いわ。でも、貴方の船は、全ての機能が作動して無いようよ。それで、私の都市と戦えるのかしら、同じ古くても、私の都市は、全ての機能は生きているわよ」
「何だと」
「私は悲しいわ。初めての同族が、貴方のような人で、私は会えるのを楽しみしていたのに、私はね。生きているのを見たのは猫しかいなかったの。それで、私は、怖くて猫としか会おうとしなかった。でも、会いたいとも考えていたのに、残念だわ」
「そうか、なら、俺の助けになれ」
「ねえ、貴方の左手の赤い感覚器官は、何かを感じているはずよね」
「それが、どうした」
「そんな事も忘れたの。私の感覚器官も感じているわ。私の連れ合いだと示しているの。竜も、先ほど、貴方に、そう伝えたはずよ」
「連れ合いだと」
「そう、赤い感覚器官は、連れ合いを探す為にあるの、背中の羽は、それを探す為に移動する力よ。もう、殺し合いは止めて、一から始めましょう。全てを忘れましょう。私達の祖先がしたように、擬人に全てを託して楽しく生きましょう」
「船など使えなくても構わん。身一つで、この空間から出て復讐をする」
「そう、なら一人でも戦いなさい。この空間から出ます。天猫さん。鏡さん。静さん。獣人の方達も都市に入りなさい。一緒に出ましょう」
都市の全ての扉が開いたが、獣たちは、正面の入り口には入ろうとも近寄る事もしなかった。それは、鏡、静、天猫が、輝の所に向かっているからだろうか、輝は、都市の中に勧めてくれたが、その他の者は、先ほどまで敵として戦っていたのだ。顔を合わしたくないのだろう。
「まだ、空間から出るのは困る」
鏡は、輝に会うと直ぐに思いを伝えた。
「もう、主と言われていた人は戦えないわよ。まさか、殺し足りないの?」
「そうでは無い。元の世界ではロボット病が流行っているのだ。その原因は竜にあると考えていた。主なら皆殺しを考えるだろうからな」
「それなら、大丈夫と思うわ。もう、治っているわよ。恐らくねぇ。あの主、船を空間から出そうとしたのよ。それで、出る為に無茶苦茶に入り口を作ったと思うわ。その影響で、擬人の脳内と船が居る空間と複雑に連結したのね。脳内は、時の流れと繋がっているわ。聞いた事ない。過去や未来が観えるとか、予知とかあるでしょう。それね」
「輝さん。それ、本当なの」
「間違いないわ。同じ事をするつもりでも、私の都市からの指示を送らないと船は動かないわ。これで、天猫さん、もう何も心配ないから都市に住めるわよ」
「これで、帰れるわね。海さん、治っているかしら、それとも、病気でなくて元々の性格だったりしてね。でも、私達の身体を取り戻したし、生身では帰るかしら?」
「帰れるだろう。だが、昔に戻りたいな。また、旅がしたいな」
「そうね。昔に戻りたいわね」
「約束は出来ないけど、近い時代に帰れるようにしてあげる。それでも、一度は元の世界
に帰り、ロボット病に罹った知り合いが治ったか確かめに行くのでしょう」
「そうだな。治ったか確かめないと、安心して旅に出られないしなぁ」
「そうね」
「それでは、中に入って下さいね。帰りましょう」
全ての獣が入り終わるのを見届けると、都市の中に誘った。
「輝さん。獣は何処に居るの?」
「倉庫に入るように通路を示したわ。大丈夫よ。安心して会う事はないわ」
静は、殺すほど憎い訳ではないが、先ほどまで戦った相手だ。直接に会えば戦いになる。そう感じたのだ。その事は、輝も考えていたのだろう。獣が入った通路は、隔壁を下ろすことによって一つの通路になり、倉庫以外には入れないようになっていた。
「調べてみるわ」
天猫達が入り口に入ると、輝は、先ほどの監視室か、休憩室のような部屋に入った。そして、直ぐに機械操作をすると、壁面に映像が映し出された。
「ねね、この男女の事を心配していたの?」
「あっ」
「自我がある。治ったようね」
その画面には、海と沙耶子が映っていた。それだけでは驚くはずも無い。何故、驚いたかと言うと、海が沙耶子の手を引っ張り、ある場所を案内しようとしているからだ。何処に案内するか分からないが、海の表情には笑みが感じられた。表情だけで無く、人を案内するとは、自分で考えて行動しないと出来ない。その様子を見て元に戻ったと感じたのだ。
「輝さん。シロ猫の飼い主は映し出せない。確か、謙二君だったはず」
「天猫さんが、行った場所や記憶があれば、映し出せるわ」
輝は、操作を続けた。謙二を画面に出し、様々な物や人物も次々に映し出した。
「輝さん。ありがとう。ねえ、鏡どうする。会いに行く」
「好んで行かなくて良いかな。海は、私の事が分かるはず無いしなぁ」
「そう。でも、天ちゃんは帰りたいでしょう。可愛いメス猫だったものね」
「静おねえちゃん。シロの事を言っているのかな」
「そうそう」
「何で、そう思うのかな、天は、あの猫には二度と会いたく無いよ」
「私も、無事を確認したから無理して帰らなくてもいいかな。ねね、ならどうする?」
静は、鏡と天猫に問い掛けた。
「そう帰らなくてもいいの。それに、行く場所も無いのね」
輝は、微笑みを浮かべた。一緒に都市で住んでくれる。とでも思ったに違いない。
「本当に帰りたい場所なら、今の身体が生きていた場所だな」
「そうね。あの場所しかないわね。天ちゃんも、そうでしょう」
「うん。あの場所に帰れるなら旅の続きがしたいね」
「天猫さんの記憶がある場所なら行けるわよ。その場所にするの?」
「面倒と思うが、お願いします」
鏡が、代表のように答えた。
「簡単だから大丈夫よ。天猫さんの記憶から時と場所が分かるから気にしないでね」
大きな溜息を吐き終わると、機械操作を始めた。でも、先ほどまでの神業のような操作ではなかった。恐らく、別れが悲しくて少しでも一緒に居たいからだろう。
「変ね。如何したのかしら?」
「無理なの」
「大丈夫よ」
「どうした?」
「何故、都市が移動先を示さないの。なぜ、動かないの?」
静の返事では無い。自分の心を落ち着かせる為の声だと思えた。そして、同じような悲鳴を何度も吐いた。壁面には移動先の映像を映し出すのだが、都市が移動の支持を受け付けないのだ。移動行動の設定だけが、初期状態に戻ったように原点を入力する指示を何度も知らせるだけだ。まるで、都市は、星も見えず、居場所を知らせる機械も、そして、駆動系も壊れてしまった。ただ、何も出来ずに、海に漂う船の様だ。
「え」
輝は、全ての生き物も、頭痛なのか言葉なのか、と思う感覚を感じた。その感覚が何度も続いた後に、はっきりと言葉と感じた。
「移動できるはずが無い」
竜が意識を取り戻した。
「主が乗る船と同じ状態になったはずだ。船は、都市を原点として時間、距離を決める。それが、この空間では時間の流れが不規則の為に、都市の原点が取れなかったのだ」
「なら、如何したら原点を復帰できるの?」
竜は、話の途中で苦痛のような言葉を吐くと、女性の問いを答える前に、また、気絶してしまった。
「映像が映っているのに行けないのか?」
「例えばね。海で、船の羅針盤が壊れ、星も見えなくて漂っていても、テレビは映像を映すわ。無線も壊れてなければ話が出来る。でも、場所が分からなければ向かう先も、救助の助けも呼べないのよ。それと同じなの」
「でも、映像が観られるなら、予想で時間とか場所が分かるのだろう。適当に設定しても行けないのか、少しくらいの違いなら気にしないぞ」
「手動や頭で計算が出来る距離の乗り物なら、その考えも良いでしょうけど、最低の設定の数値でも、何百年も違ってしまうわ。その地に着けば良いけど、着かない場合は、時の流れの中を永遠に漂う事になる」
「馬鹿な真似はするな。船と違い、都市なら初期設定からやり直せばで、この地で原点の設定が出来るはずだ。我の程の大きさで、永く生きている物なら原点として設定が出来るだろう。だが、一点だけでは認識はしないはずだ。今の都市の場所と、我の二点なら再認識するはずだ。そして、短い距離だが、最低設定値が確定できれば正常の時と同じように起動してくれるはずだ」
竜は、輝の話を聞いていた。自殺行為と思い、痛みを堪えるような声で説得をした。
「原点として確定したわ」
「だが、一つの時の流れしか現れないだろう。それでも、我の脳波が反応している間だけだ。そろそろ、我の身体の治療の為に仮死状態になる。もしかすると、命が尽きるかもしれない。我の意識がある内に、早く、この時が止まった空間から時が流れる世界に行くのだ。だが、出入り口は、一つのはずだぞ。我が、最近に時の流れを感じた場所だ。それは、擬人の男女と猫が、この空間に入ってきた。その時と場所だろう」
「分かったわ」
「それと、鏡と静かと言ったな。戦いの目的だと言った。ロボット病だが」
「何故、それを知っている。お前の仕業か」
「お嬢さんが言ったように、原因は、主様が、復讐の為に、この空間から船を出そうとして、無茶苦茶に入り口を設定したからだ。もう船の制御は都市の指示しか受け付けない。
すでに、ロボット病になった者は、元に戻っているだろう。それは、安心しろ」
「信じよう」
鏡が、即答した。
「主様」
「何だ」
「主様も、船を捨て共に出るのです」
「我は、この船で閉じた空間から出る。そして、復讐をするのだ」
「無理よ。この空間から出られないわ。貴方の船は、都市の指示しか受け付けないわ」
「うっうううう」
室内の音声機械から泣き声が響いた。
「出られないでしょう」
「お嬢さん。主様を頼む」
竜は、最後まで話し終える前に、仮死状態になったようだ。
「大丈夫よ。一人だけ残すのも心配だから安心して」
「・・・・・」
「竜さん?」
「輝さん。竜には伝わっているよ。それで、俺達は竜の頼み事、主様と言う者を連れてくる。その間、出発の準備を頼む」
「はい。準備をしておきます。それでは、お願いしますね」